ロンドンとパリとブリュッセル、アムステルダムほかドイツを結ぶユーロスターですが、航空会社連合のスカイチームに加盟することを発表したことを個人的に解釈してみました。
ユーロスターとは
ユーロスターと言うと世界最長の青函トンネル(当時)をわずかに短く完成したユーロトンネルを走り、かつての100年戦争では想像できない路線であります。カテゴリー的には高速鉄道になり、最高速度300km/hとなっています。
ユーロスターは英仏(ブリュッセル)専業のように思えますが、2022年4月よりオランダ=パリ間で運行していたタリスと統合し、新生ユーロスターグループとなっています。
以上から端的に言うとロンドンとパリ、ブリュッセル、パリとブリュッセル、アムステルダムさらに、ドイツ北西部を停車駅少なく結ぶ高速鉄道であります。
特徴としては高速鉄道であり、各都市間を3時間程度で接続できるところであり、同区間を航空機で移動する場合にも、空港まで移動時間、搭乗手続きから搭乗時間までロスタイム等を考えると十分に対抗できる乗り物と言えます。東京大阪の新幹線か飛行機かに近い感覚です。
高速鉄道が乗り入れている駅は日本で言う丸の内や新宿とは言えませんが、そこそこユーロスターを利用できる層にとってはタクシーで15分くらいで移動できる場所に駅があるので、ヒースローやガトウィック、シャルル・ドゴール、ブリュッセル、スキポールに行くよりもメリットがあると感じているのかもしれません。
スカイチーム加盟の意味は
今回、スカイチーム加盟を表明していますが、そのあたりを整理してみます。
スカイチームに加盟する欧州の主な航空会社は下記のとおりです。
エールフランス
KLM
スカンジナビア航空
ITAエアウェイズ
エア・ヨーロッパ
ヴァージン・アトランティック航空
このうち、ユーロスターと競合するのはエールフランス、KLMであります。普通に考えるとJR東海とANA、JALとの関係に近いところでありますが、なぜ、スカイチーム加盟に至ったのか考えてみます。
ロンドンと言えばブリティッシュ・エアウェイズ
ユーロスターの北の発着地と言うとロンドンであり、そこをハブにする巨大航空会社はブリティッシュ・エアウェイズであります。フルサービスキャリアであり、ロンドン・ヒースローとガトウィックをハブとして世界中にフライトを供給しているだけでなく、欧州内でも供給しています。
ユーロスターと競合するところではブリュッセル、パリ、アムステルダムのほか、ユースターではブリュッセルからさらに時間はかかりますが、ケルンやフランクフルトがあります。
日本で言うと羽田から名古屋、大阪、金沢あたりに相当しますが、ユーロスターが運行後も健在であります。
競合ではありますが、需要をお互いにカバーしている側面もありますが、時間帯によってはLCCと思うくらい安い運賃があったりしており、競争関係はあるとも言えます。ブリティッシュエアウェイズのみの需要をとっていきたいとも見えます。
ブリュッセル航空はスターアライアンス
そして、ユーロスターが走る場所をハブにしているエアラインがもう一つあります。それはブリュッセル空港をハブとするブリュッセル航空です。ブリュッセルは空港も鉄道駅も市街地から近く便利な土地でありますが、それが故に競合も激しいと言えます。パリとアムステルダムはほぼ鉄道一択であり、ロンドンは高速鉄道とエアラインが競合しています。
また、ブリュッセルからバスで1時間ほどのところにはシャルルロア空港があり、こちらはLCCの拠点であり、ブリュッセル航空は結構、激しい競争にさらされているところかもしれません。ここに、ユーロスターがスカイチームと提携するとスカイチーム利用者でロンドン=ブリュッセル間の利用者の人はさらにユーロスターを利用するモチベーションが上がり、ブリュッセル航空の需要をさらにリプレイスする可能性があります。
DBはスターアライアンス
そして、既に航空連合に加盟しているのはドイツ鉄道(デーベー)です。同国最大のキャリアルフトハンザドイツ航空が加盟するスターアライアンスです。ドイツはスターアライアンス派ともいえる航空と鉄道が提携しています。
こうしたところスカイチームはなかなか触手を出すことはできませんが、パリとブリュッセルのアムステルダムとの往来需要は持っているものの、ドイツ側からICEで地上移動するスターアライアンス利用者が浸食してきており、今回のスカイチーム加盟はICEによるスターアライアンスの浸食を防ぐ役割があるのかもしれません。
フランスとイタリアの動きに注目
これまではフランス・イタリア共にスカイチーム加盟のエアラインあり、欧州ではKLMと合わせて、かなり強いアライアンスでした。しかし、ITAがスターアライアンス加盟、イタリアとの欧州域内、イタリア国内のピースを失うこととなります。一方で、海を隔てたキャリアであるスカンジナビア航空はスターアライアンスからスカイチームに転籍となっていますが。
ITAとスカンジナビア航空を天秤にかけた場合、スカイチームにとってはITAの方が大きかったと言えます。相対的にロンドンがハブであるワンワールド、ドイツがハブであるスターアライアンスに対して地位的には優位なものの、その差が埋まることとなります。それもあって、ロンドンとベルギーというピースを得るために今回の提携と言えます。
そして、次に動くとするとフランスとイタリアの高速鉄道でありますが、両国とも上下分離方式で複数の鉄道会社が高速鉄道を運行しており、なかなかまとまってスカイチームと提携と言うのは少ないと言えます。そうするとスカイチーム側もあまりメリットがないため、手を出さない可能性があります。
イタリアについても複数の高速鉄道会社が存在しますが、オールイタリア的な動きをすることも想像され、そうなるとスカイチームではなく、トレニタリアがスターアライアンスと提携と言うのが出てくるかもしれません。まだ、ITAがスターアライアンスに加盟も完了していないので、かなり先の話になるかもしれませんが。
ターゲットは意外と狭い
世界で2番目の航空券合であるスカイチームにユーロスター提携と言うと大きな話ではありますが、本当に大きいのか考えてみるとそうでもないような、そうでもある感じであります。
今回はあくまで欧州内で流動のリプレイスと確固たるものにする限定的な話であり、あくまでアライアンス間の争いと考えられます。スカイチーム、ユーロスターの客層を見てもビジネス利用が多く、単価が大きい利用客であり、そうした顧客の獲得合戦と言えます。
大きな需要であるLCCから利用者をリプレイスするというのは考えられず、そういう意味では大きな需要を取り込むと言うものではないと言えます。
また、地球規模で考えると西ヨーロッパのフルサービスキャリア需要はアジアや北米の需要と比較した場合、かなり小さな話であり、ローカルキャリアが1つ加盟したのとあまり変わらないのではないかと思います。
日本もいずれは?
欧州ではスターアライアンスはドイツ鉄道、スカイチームはユーロスターと言う勢力図が出てきましたが、これはインターユーロ間の移動の需要が大きいところであります。
これを日本と比較すると都道府県間の移動が多いのにも類似しています。そうなると日本でもJRグループがどこかのアライアンスと提携する可能性がありますが、JRグループが一挙に提携と言うのは厳しいかもしれません。JRと冠はつきますが、北海道と四国と貨物以外は資本関係はなくなっており、上場各社の経営方針やニーズが違い、スターアライアンス、ワンワールド、スカイチームのどれか一色になる可能性は低いと考えられます。
中国の航空会社のように3連合個別に加盟と言うのは考えられますが、JR各社とJAL、ANAをはじめとする大手航空会社の個別サービスによるコラボも多く、難しいのではないかと思います。
また、JALとANA利用が圧倒的なシェアがあり、マイレージも半世紀近く根付いており、赤組、青組と言われるようなコア層も存在したりします。このように2分とは言い過ぎかもしれませんが、航空と鉄道で利用が分かれている中で、どこかのアライアンス一色になる、またはエリアごとに分かれている会社が個別に各アライアンスと提携と言うのは厳しいかもしれません。
東京在住でANA利用でJR東日本がスカイチームに加盟したら、大阪在住でJAL利用でJR西日本がスターアライアンス加盟となった場合に不満を持つ人が多くなるかもしれません。
もしあるとすると、大都市間輸送のJR東海がスカイチームだと成田、羽田、セントレア、関西間の移動にスカイチームとしてはメリットはあるかもしれませんが。
スカイチームでは過去にデルタ航空が成田空港で以遠権を大きく持ち、成田空港をハブとして展開し、マイレージ面では日本国内線をどのキャリアを利用しても500マイル付与と言うキャンペーンをしぶとく展開していており、精力的でした。
しかし、ソウル仁川が大韓航空と共にハブ化したため、日本での展開については以前ほどエネルギーはなくなっており、日本の鉄道事業者とのスカイチーム連携は現実的ではないかもしれません。
スカイマークをスカイチームにと言う話もありますが、大株主でもあるANAが羽田発着枠確保と共に難色するでしょうし、仮にJRを巻き込んでスカイチーム強化と言ってもJAL、ANA利用からはリプレイスできずに、存在感を示せないのではないかと思います。
最後に
飛行機については聖域感が未だにありましたが、海外LCCではそれを感じないこともあります。ある意味、親近感を感じます。言い方はあれですが、高速バスみたいな感じもあります。
日本の東名阪の移動は東海道新幹線とJAL,ANA、そして、かなり比率は下がりますが、高速バスで不文律が維持されているようにも感じます。航空会社は伊丹、関西、神戸をワンオオサカとして設定した時期もありますが、伊丹一強とも言えます。
加齢するにつれて、新幹線の方が便利だなと感じてしまいます。手荷物検査なし、10分待てば乗れる、快適で定時と言うのを考えると納得であります。
今年、TGVにてフランス国内を移動しましたが、意外というと失礼ですが、定時運行であるのを考えると鉄道が航空に勝る断面が想定され、スカイチーム加盟会社はそのことを危惧して先手を打ったのでしょう。
ローカル需要ではあるものの、ブリティッシュエアウェイズとブリュッセル航空を仮想敵国として意思を表明することがスカイチーム管内路線の生きるの道としたのかもしれません。これからの時代、飛行機で行けることもあれば、鉄道でないといけないこともあり、両方でも良いですよと訴求も必要とも言えます。
日本はこのまま鉄道と航空とそのままであって欲しいとも言えます。その風穴を破るとなるとスカイマークとJR東海がありそうですが、普通に日本で暮らしている日本人からすると???となるかもしれません。