
ブラジル・リオデジャネイロで開催された国際航空運送協会(IATA)の年次総会にて、これまで「どのアライアンスにも属さない独立系フルサービスキャリア」として独自のポジションを築いてきたフィリピン航空(PAL/PR)が、グローバル航空アライアンス「ワンワールド(oneworld)」へ加盟する覚書(MOU)を締結したと電撃発表されました!
正式な加盟手続きの完了は2027年内を見込んでおり、ワンワールドにとっては16番目のフル加盟航空会社(※発表当初はconnect等の一部報道もありましたが、最終的にフルネットワーク補強の扱い)となります。これにより、新たに31都市がワンワールドの路線網に加わることになります。
一見すると「へえ、JALと同じアライアンスになるんだ。便利になるね」という単純な話に見えるかもしれません。しかし、日本のマイラー、特に青組(ANA派)にとっては、胃が痛くなるような複雑な背景と、今後のドロドロとした資本・提携関係の解消劇が裏に隠されているのです。
今回は、このニュースのファクトから始まり、最新の「3大アライアンス勢力図」、そして筆頭株主級としてフィリピン航空の株を「9.5%」も握っているANAホールディングス(HD)の今後の動向、さらにはベトナム航空やアシアナ航空という「過去の前例」との決定的な違いまで、どこよりも深く、マニアックに徹底考察していきます!
- 【ファクト】フィリピン航空がワンワールド加盟へ合意!何が変わる?
- 激変する「世界3大アライアンス」の最新加盟航空会社一覧
- この勢力図から見える、日本=マニラ路線の重大な変化
- 核心:ANA HDが持つ「9.5%の株式」はイグジット(売却)へ向かうか?
- 【比較考察】なぜ「ベトナム航空」はOKで、「フィリピン航空」はNGなのか?
- もう一つの前例:アシアナ航空の「強制株式交換」とANAのゆくえ
- 最後に
【ファクト】フィリピン航空がワンワールド加盟へ合意!何が変わる?
まずは今回の発表内容から、重要なファクトを整理しておきましょう。
- 発表日: 2026年6月7日(IATA年次総会@リオデジャネイロにて)
- 加盟先: ワンワールド(oneworld)
- 正式加盟時期: 2027年内(予定)
- 規模: ワンワールドにとって16番目の加盟会社。ネットワークに31都市が新規追加。
背景: フィリピン航空は1941年創立、アジア初の航空会社として今年で85周年。近年はコロナ禍による米国連邦破産法第11条(チャプター11)の適用から劇的な経営再建を果たし、A350-1000の大型発注など機材近代化を進めてきた。
フィリピン航空の親会社であるPALホールディングスのルシオ・C・タン3世社長兼最高執行責任者(CCO)は、今回の決断を「フィリピン航空にとって決定的な転換点(defining and transformative moment)であり、フィリピンが世界経済との結びつきを強化する新たな機会を生み出すものだ」と、極めて前向きにコメントしています。
一般の旅行者やマイラー目線で言えば、2027年の正式加盟以降、以下のメリットが解禁されます。
- JALマイルでフィリピン航空(マニラ、セブ等)の特典航空券が取れるようになる
- JALのステータス(サファイア、JGC、ダイヤモンド)があれば、マニラやセブの空港でPALの「マブハイラウンジ」が使えるようになる
- マニラ発着の以遠権フライトや、北米路線への接続においてシームレスなワンワールド発券が可能になる
特にマニラ空港(ニノイ・アキノ国際空港)の第1ターミナルや第2ターミナルの使い勝手が、JAL便・PAL便の間で劇的に向上することは間違いありません。赤組(JAL派・ワンワールド派)にとっては、東南アジア東部のネットワークが一気に補強される、大歓迎すべきニュースです。
しかし、ここで青い顔をしているのが「ANA(全日本空輸)」なのです。
激変する「世界3大アライアンス」の最新加盟航空会社一覧

フィリピン航空が加わることで、世界のメガアライアンスの勢力図はどう変わるのでしょうか。
ここで、最新の「ワンワールド」「スターアライアンス」「スカイチーム」の加盟航空会社を、現在の日本市場や世界情勢を反映した形で一覧表にまとめました。
各アライアンスの最新の布陣は以下の通りです。タップすると一覧が開きます。
近年はアライアンス間の移籍(SASのスカイチーム移籍や、ITAエアウェイズのスタアラ移籍)や、メガキャリア同士の吸収合併が相次いでおり、かつての「定番」から大きく塗り替わっています。
この勢力図から見える、日本=マニラ路線の重大な変化
フィリピン航空(PAL)がワンワールドに加わることで、日本発着路線のパワーバランスは一変します。
これまで日本=フィリピン間は、JALがワンワールド、LCC(セブパシフィック航空やジェットスター)が独立系、そしてANAが「自社便+フィリピン航空との強固なコードシェア・マイル提携」という形で、実質的にANAがネットワークの利便性において優位に立っていました。
しかし2027年以降、この構図は以下のように書き換わります。
- ワンワールド(JAL+フィリピン航空): 圧倒的王座へ。運賃やスケジュールの共同事業(JV)に発展する可能性大。
- スターアライアンス(ANA単独): パートナーを失い孤立。マニラから先のフィリピン国内線(セブ、ダバオ、バコロド、カガヤン・デ・オロなど)へのスルーチェックインやコードシェア接続のネットワークを喪失。
個人的にはプレミアムポイントが積算されないため、フィリピン航空は利用することはまずありませんが、ANAにとって、フィリピン市場はビジネス出張(インフラ・製造業)および観光(リゾート)の両面で極めて重要なマーケットです。そこでの強力な「足」を丸ごと奪われ、競合であるJALの陣営に組み込まれてしまうことは、東南アジア戦略における重大な痛手と言わざるを得ません。
核心:ANA HDが持つ「9.5%の株式」はイグジット(売却)へ向かうか?

ここで、航空ビジネス・投資の観点から最もエグい核心部分に触れていきましょう。
実はANAホールディングス(HD)は、2019年2月にフィリピン航空の親会社である「PALホールディングス」の株式を9.5%(約9,500万米ドル/当時のレートで約105億円)取得した「大株主」なのです。現在もANAからPALへ取締役を派遣し、経営のガバナンスにも関与しています。
アライアンスを裏切られたANAはどうするのか?
リオデジャネイロでの会見時、メディアがPALのルシオ・C・タン3世社長に対し「大株主であるANAとのパートナーシップは今後どうなるのか?」と直撃しましたが、タン社長はその場での明確な回答(即答)を避けました。
航空業界のセオリー、そしてガバナンスの論理から言えば、ANA HDはこの9.5%の株式を「イグジット(売却・回収)」し、取締役を引き揚げる可能性が極めて高いと考えられます。その理由は以下の3点です。
① 「競合への塩送り」を許さないガバナンスの壁
ワンワールドへの正式加盟に向けたプロセスが始まると、PALの取締役会では「ワンワールド各社との深い戦略的提携」や「共同事業(JV)に向けた運賃・路線調整」といった、アライアンス内の極秘情報が飛び交うようになります。
ここに、スターアライアンスの中核であるANAの派遣取締役が座り続けることは、インサイダーや競合への情報漏洩リスクの観点から、双方にとって絶対に不可能です。ワンワールド側(特にJALやアメリカン航空)からも、ANAの資本と取締役を排除するよう強い圧力がかかるはずです。
② 投資目的の完全な喪失
ANAが2019年に出資した目的は、「独立系であるPALを自社陣営(スタアラ)へ囲い込み、東南アジアのネットワークを補強すること」でした。それがJALの陣営に寝返る以上、ANAがPALを資本面で支える大義名分は1ミリも残りません。
③ 売り時としてのベストタイミング
出資直後の2020年、コロナ禍によってPALは経営破綻(チャプター11申請)し、ANAの投資は一時「紙切れ寸前」の大赤字(塩漬け状態)になりました。しかし、現在のPALは見事にV字回復を遂げ、ワンワールドに招待されるほど企業価値を高めています。
ANAとしては、当時の出資額(9,500万ドル)を可能な限り回収し、損を最小限に抑えて手放すことができる「最高の売り時」が来たとも言えるのです。
おそらく、2027年の正式加盟までの移行期間の間に、PALの筆頭株主であるルシオ・タン氏のグループがANAの保有株を買い戻すか、ワンワールド系の別の航空会社やファントへ転売されるスキームが裏で調整されていると見て間違いありません。
【比較考察】なぜ「ベトナム航空」はOKで、「フィリピン航空」はNGなのか?

ここで、勘の鋭いマイラーや航空ファンなら、一つの疑問が浮かぶはずです。
「ちょっと待って。ANAはスカイチームの『ベトナム航空』の株(約8.8%)も持っているし、コードシェアもマイル提携も取締役派遣もずっと続けているよね? なんでフィリピン航空はイグジットしなきゃいけないの?」
素晴らしい着眼点です。確かにANAは、アライアンスの壁を越えてベトナム航空(VN)と深く組んでいます。しかし、ベトナム航空のケースと今回のフィリピン航空のケースでは、条件が「真逆」と言えるほど決定的な違いが3つあるのです。
違い①:日本のライバル「JAL」がそこにいるかどうか
これが最大の理由です。
ベトナム航空はスカイチームですが、日本国内のライバルであるJALはベトナム航空と提携していません(JALは独立系のベトジェットエアと組んでいます)。つまり、ANAがベトナム航空を支援しても、それが直接JALの利益になることはありません。
しかし、フィリピン航空がワンワールドに入るということは、JALとPALがダイレクトに組むということです。ANAから見れば、「自社がお金を出して支えている会社が、宿敵JALとべったり組んで自社に牙をむいてくる」という最悪の構図になります。これは経営上、絶対に許容できません。
違い②:「織り込み済み」の投資だったかどうか
ANAがベトナム航空に出資したのは2016年。ベトナム航空がスカイチームに加盟したのは2010年です。つまりANAは、「最初からスカイチームの会社だと分かった上で、ベトナム市場の利権を抑えるために例外として出資した」のです。
一方でフィリピン航空は2019年出資。当時はアライアンス未加盟のフリー素材(独立系)だったからこそ、「将来のスタアラの仲間」としてANAが囲い込んだのです。そこからワンワールドに転向するというのは、ANA側からすれば「後から前提条件をひっくり返された(裏切られた)」形になります。
違い③:マーケットにおける「代替不可能性」の差
日本=ベトナム路線において、ベトナム航空は日本の地方空港も含めて約5割という圧倒的なシェアを握っています。ANAがベトナム市場で生きていくためには、スカイチームというアライアンスの壁を越えてでも、ベトナム航空の翼を借りるしか選択肢がありませんでした。
対してフィリピン(マニラ)路線は、ANA自身も羽田・成田から自社便を多く飛ばしており、セブパシフィック等のLCCも乱立しています。PALの網は魅力的ですが、ベトナム航空ほど「プライドを捨ててでも、何が何でもしがみつかなければならない」ほどの絶対的な独占力はありません。
もう一つの前例:アシアナ航空の「強制株式交換」とANAのゆくえ

ANAが少量の株式を保有し、アライアンスの変動に巻き込まれているもう一つの事例が、現在進行形である「大韓航空(KE)によるアシアナ航空(OZ)の吸収合併」のケースです。
直近の2026年5月、大韓航空とアシアナ航空は取締役会にて、最終的な合併契約と具体的な株式交換比率を正式に承認・公示しました。
- 確定した合併比率: 大韓航空 1 : アシアナ航空 0.2736432
- アシアナの運命: 2026年12月17日をもってアシアナ航空という法人・株式・ブランドは完全消滅し、大韓航空に吸収される。それに伴い、2026年12月1日にスターアライアンスを脱退。
実はANAは、2007年に日韓の強固なアライアンスネットワークを構築する目的で、アシアナ航空の株式を約0.81%(当時1,200万ドル、約14億〜15億円)取得しています。
このANAが持つアシアナ株はどうなるかというと、一般の株主と全く同じルールが適用され、2026年12月の統合時に自動的に「大韓航空(スカイチーム)の株式」へと強制的に交換(新株割当)されてしまいます。
ANAからすれば、長年スターアライアンスの同志として一緒にJAL・大韓航空連合と戦ってきたアシアナの株が、気づけば宿敵である大韓航空(スカイチーム)の株に化けてしまうという、これまた非常に皮肉な結末を迎えます。
ただ、アシアナ株におけるANAの保有比率はわずか0.81%(経営権なし)であるため、大韓航空が進める巨大統合のスキームに抗う術はなく、ただ流されるしかありません。交換によって手に入った大韓航空の株は、統合完了後、ANAによって速やかに市場で売却(イグジット)されるというのが確実視されているシナリオです。
🇵🇭 フィリピン航空のケース
ANAの保有率は「9.5%(筆頭株主級・取締役派遣)」。影響力が大きいため、ワンワールド加盟に対してANA側から主体的に株の売却条件や提携解消の交渉を仕掛けることができる。
🇰🇷 アシアナ航空のケース
ANAの保有率は「0.81%(微小株主)」。経営決定権がないため、大韓航空の完全吸収スキーム(12月17日統合)に巻き込まれ、自動的に株が書き換わるのを待つのみ。
最後に

今回のフィリピン航空のワンワールド加盟発表、そしてアシアナ航空の完全消滅(2026年12月)により、航空アライアンスの世界地図は完全に塗り替わります。
最後に、我々マイラー(特にANA・スターアライアンス派)が頭に入れておくべき今後の重要タイムラインと対策をまとめます。
アシアナ航空の臨時株主総会で大韓航空との合併契約が決議。
アシアナ航空、スターアライアンスを正式脱退。
※ANAマイルやアシアナマイルを使ったスタアラ特典枠の予約・発券デッドライン。
アシアナ航空が完全消滅し、大韓航空へ統合。ANAが持つアシアナ株が大韓航空株へ強制交換。
フィリピン航空、ワンワールドへ正式加盟。 これに伴い、ANAとのコードシェア・マイレージ提携が完全終了(または段階的廃止)へ。ANAが持つPAL株(9.5%)の売却・イグジットに関するIRが発表される可能性大。
⚠️ ANAマイラーが今すぐやるべきこと
現在、ANAのプレミアムメンバー(ダイヤモンド・プラチナ・SFC)のステータスや、ANAマイルを使ってフィリピン航空の運航便(マニラ線・セブ線など)を美味しく利用している方は、この贅沢な恩恵を受けられるのが「2027年の正式加盟まで(残り約1年〜1年半)」の期間限定になったことを覚悟してください。
特に、ANAマイルを使ったフィリピン航空の特典航空券の発券や、コードシェア便への搭乗によるプレミアムポイント(PP)稼ぎなどを計画している方は、提携解消のアナウンスが出る前に、早め早めにスケジュールを組んで消化しておくことを強くお勧めします。
アライアンスの「鎧」を脱ぎ捨てて独自の道を歩む航空会社がある一方で、フィリピン航空のように生き残りをかけてJALと同じワンワールドの傘に入る決断をする会社もある。航空業界の一寸先は光であり、また闇です。
だからこそ、「マイルは貯めるだけでなく、使えるうちに最高効率で使い切る」という鉄則が、改めて身に染みるニュースでした。