
日本の国内線、特に幹線を長年にわたって支え続けてきた大いなる翼、ボーイング777-300(773)。その退役の足音が刻一刻と近づく中、運良くふたたび搭乗する機会に恵まれましたので、その一部始終を旅の記録としてお伝えいたします。
今回は東京・羽田から南国・沖縄へと向かうフライトです。迫りくる引退の時を前に、ベテラン機材が魅せる最後の輝きを肌で感じてきました。
- 変化を遂げる起点、浜松町駅から旅は始まる
- ラウンジからの展望と、10分遅れの出発
- B滑走路からの離陸と、静かに眠る「AirJapan」の姿
- 幹線ならではのボリューミィー「プレミアム機内食」を堪能する
- まったりとした時間が流れる、午後の機内
- 喜屋武岬を回り込み、蘭の花が迎える那覇空港へ着陸
- 最後に
変化を遂げる起点、浜松町駅から旅は始まる


旅の始まりはモノレールの始発駅、浜松町からです。
現在、浜松町駅は大規模なリニューアル工事の真っ最中ですが、6月13日に新駅舎の一部が開業するためか、ホーム階ではこれまで仮囲いで見えなかった部分が随分と見通せるようになっていました。
新しくなったホームは乗車側も降車側も格段に広くなっており、これによって朝夕のラッシュ時や旅行シーズンにおけるかなりの混雑緩和につながるのではないでしょうか。
羽田モノレールといえば、日中のダイヤにおいて「0分発が空港快速」「5分発が普通」となっています。普通列車は途中で快速に追い抜かれるダイヤ設定のため、結果として空港へ急ぐ乗客と普通列車を待つ乗客が、ホーム上で約5分間同時に滞留することになります。これまでのホームの狭さを考えると、そうした構造も混雑の大きな要因だったのかもしれません。新ホームの開放感に、今後の快適な移動への期待が膨らみます。
ラウンジからの展望と、10分遅れの出発

モノレールを降り、保安検査を抜けてANA SUITE LOUNGE(スイートラウンジ)までようやくたどり着きました。窓の外に目をやると、国内線仕様の長い胴体が特徴的なボーイング777-300の姿が堂々と鎮座しているのが見えます。やはりこの長さは遠くからでも圧倒的な存在感があります。

本日のフライトは、使用機材の到着遅れの影響により、定刻から10分遅れての出発となりました。
しかし、幸いにも今日の機内はそこまで混雑していないためか、事前改札やダイヤモンドメンバーなどの優先搭乗も比較的スムーズに、かつ早く終了しました。

本日の指定座席は、贅沢にも最前列の「1A」です。
驚いたことに、沖縄(那覇)線といえば常に満席に近い印象がありますが、今日に限っては隣の1B席も空席でした。そればかりか、機内全体を見渡してもかなり空席が目立ち、プレミアムクラスの真ん中の列(中央席)にいたっては、ほぼ全ての座席が空いているという珍しい状況でした。

退役が間近に迫っている機材ということもあり、近年主流となっている最新鋭シートへの更新などは行われておらず、機内全体にどこか懐かしい「レトロさ」が漂っています。


シートポケットに忍ばされた安全のしおり(セーフティーカード)を見ると、国際線仕様の長距離機である「77W(777-300ER)」と共通のデザインは変わらずです。
そして、壁掛けの大型モニターは、この機体が就航した当時からずっとこの場所で乗客を見守ってきたのではないかと思わせるほどの年季を感じさせます。現代の薄型・高精細な液晶ディスプレーの進化を考えると、この30年で航空機の機内設備がいかに目覚ましく変わったかを、しみじみと実感させられます。
B滑走路からの離陸と、静かに眠る「AirJapan」の姿

飛行機は定刻より約15分ほど遅れて、ゆっくりとプッシュバックを開始しました。
てっきり西側へ進んでA滑走路(RWY34L)から離陸するのかと思いきや、本日の進路はB滑走路(RWY22)へと向かいます。
誘導路を移動する途中、運行停止(運休)となってしまった「AirJapan」のボーイング787が駐機しているのが見えました。先日の記者会見で社長が説明されていた通り、エンジン部分が完全に取り外された痛々しい姿を晒しており、航空業界の厳しい現実を垣間見たような気がいたしました。

今回は滑走路22から多摩川方向に向けて、力強く離陸します。
以下に離陸時の様子を収めた動画(約2分半)を掲載します。ボーイング777-300が誇る力強いエンジン音と、窓からのダイナミックな景色をぜひお楽しみください。


離陸後、飛行機は順調に高度を上げていきます。
眼下には東京湾、相模湾、伊豆半島、そして駿河湾が次々と流れていき、飛行機は一旦、静岡県の陸地へと進入していきます。
この日は天候に恵まれ、御前崎の地形が実にくっきりと、きれいに見えました。上空からその独特の三角形の突端だけを見つめていると、日本の遥か東に浮かぶ孤島「南鳥島」のシルエットのようでもあり、空からの地理観察は一向に飽きることがありません。
幹線ならではのボリューミィー「プレミアム機内食」を堪能する

上空での安定飛行に入ると、お待ちかねのプレミアム機内食の時間がやってきました。
さすがは羽田ー那覇という主要幹線です。メニューの内容も非常にボリューミィーで、目移りしてしまいます。


食事の主食(写真左)は、食欲をそそる「焼豚 玉子御飯」です。そしてメインディッシュ(写真右)とも言える上品な一皿は、「太刀魚湯葉のせ 山菜餡掛け」であります。
その他の脇を固めるお料理も実に多彩で手が込んでいました。
- 定番の「玉子焼き」とジューシーな「鶏竜田揚げ」
- 味わい深い「烏賊と玉葱のさつま揚げ」
- 食感が楽しい「蓮根明太金平」
- 彩り豊かな「小柱、筍、赤蒟蒻、菜の花の蓬味噌掛け」
- さっぱりとした「キャベツのちりめん和え」
- 洋風のアクセントがきいた「烏賊のマリネ 青豆とポテトサラダ グリーンピースのクリーム」
- 贅沢な「生ハムとコンソメゼリー」
これだけの品数が少しずつ美しく盛り付けられており、機内のひとときを格段に豊かなものにしてくれます。
ワイン

これだけ豪華なお料理を前にすれば、お酒が進まないわけがありません。
まずは喉を潤すために、シュワっと弾ける「泡」からスタートします。
用意されていたのは、フランス産のスパークリングワイン(ヴァン・ムスー)である「ルイ・ペルドリエ ブリュット・エクセレンス(Louis Perdrier Brut Excellence)」です。
こちらの銘柄の日本国内における一般的な市場価格(ネット通販や量販店など)は、フルボトルでおよそ1,000円〜1,500円前後(税込)と、非常にリーズナブルな価格帯で流通しています。デイリーワインとして非常にコスパが良く、すっきりとした辛口(Brut)で、どなたにも親しみやすい味わいが特徴の扱いやすい1本です。


続いていただいたのは、ファミーユ・ペランが手掛ける白ワイン「ペイル・ブランシュ ケランヌ」です。
こちらは豊かなコクとフルーティーな香りが素晴らしく、心地よい酸味とミネラル感が絶妙に調和した、非常に上品な辛口の味わいが楽しめました。市場価格を調べてみると、187mlのミニボトルで約700〜900円、フルボトル(750ml)に換算すると約2,500〜3,500円ほどになります。こちらは先ほどのスパークリングに比べると、意外にもプレミアムな選定となっており、機内食の格をさらに引き上げてくれていました。
まったりとした時間が流れる、午後の機内

今回は夕方に出発するフライトということも影響してか、お食事を終えた後は、機内のあちこちで昼寝をされている方の姿が多く見受けられました。
昨夜が遅かったのか、あるいは成田や羽田に到着した国際線からの乗り継ぎで疲れている旅客が多いのかは分かりませんが、機内にはとても穏やかで、まったりとした心地よい空間が広がっていました。

この日は全体的に雲が多い日でありました。
しかし、飛行機旅の半分くらいはいつもこんな景色であるような気もします。もしアフリカの乾燥地帯へでも行けば、地平線まで続く乾いた大地がずっと見られるのでしょうが、湿潤な気候の日本ではなかなかそうはいきません。白い雲海を眺めながらのフライトも、それはそれで日本の空らしい情緒があります。
喜屋武岬を回り込み、蘭の花が迎える那覇空港へ着陸

ワインに舌鼓を打ち、まったりとした時間を過ごしていると、楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまいます。
本日は珍しいアプローチ経路となり、沖縄本島の東側からアクセスし、最南端の喜屋武(きゃん)岬を大きく回り込んでからの着陸となりました。

窓の外に見える喜屋武岬周辺の海原には、ぽつぽつと白波が立っており、地上付近は少し風が出ているようです。あいにくの曇りがちなお天気ではありましたが、それでも海面は沖縄らしい美しいエメラルドグリーンと深いブルーの色合いを覗かせており、南国へやってきたことを強く実感させてくれます。

無事に着陸して誘導路を進むと、那覇空港の第2滑走路の北側に設置された「進入灯橋梁」が目に飛び込んできます。海上へと美しく伸びるその構造は、広島空港の有名な進入灯架道橋ほどではありませんが、それでも十分に壮観で見応えのある景色です。

そして飛行機を降りると、到着ロビーでは那覇空港らしい鮮やかな「蘭の花のプランター」が私たちを迎えてくれました。何十年もの間、いつ訪れても変わることのない、沖縄の玄関口を象徴する大好きな景色の一つであります。
最後に

前回の搭乗が、自分にとってこの名機「ボーイング777-300」との最後の別れになるだろうと思っていましたが、嬉しい誤算でまたしても搭乗することができました。
昨今は国際線の航空券が高騰していることもあり、マイルやステータス獲得のためのいわゆる「マイル修行」の舞台を国内線(特にプレミアムクラスで国内幹線)にシフトさせている状況です。
そうした背景を考えると、機材が完全に引退してしまう前にもしかしたら、もう一回くらいは彼の大いなる翼に身を委ねる機会が訪れるかもしれません。