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Inspiration of Japanの「盾」と「矛」:20年目を迎えるダイヤモンド会員が考察する、ANAがカスハラ対策を“唄う”真の理由

ANAの最高峰、ダイヤモンドメンバーとして20年近く経ちます。一人の子供が成人するほどの月日を、青い翼に捧げてきた方にとって、最近の機内のアナウンスやポスターに並ぶ「カスタマーハラスメント(カスハラ)への毅然とした対応」という言葉には、一抹の寂しさや違和感を覚えるかもしれません。まあ、傍若無人は喝だコラですか、あまりに予防線を張りすぎて引くことを感じます。

かつての日本の空には、搭乗者の無理難題すら「おもてなし」の範疇として飲み込み、笑顔で解決してみせるプロフェッショナルの矜持が溢れていました。しかし今、各社が躍起になって発信しているのは、顧客への「拒絶」とも取られかねない防御姿勢とも言えます。

「Inspiration of Japan」は「日本が誇る、世界を輝かせるインスピレーションを」その志を掲げるANAが、なぜサービスの手を休めてまで「盾」を構える必要があるのか。その裏側には、日本のサービス業が直面している、もはや無視できない「生存戦略」の物語があります。

カスタマーディライトという「華」と、カスハラ対策という「土壌」

サービスの本質を語る際、私たちはしばしば「カスタマーディライト(顧客の予想を超えた感動)」を追求します。それは企業の成長や差別化における最強の「矛」であり、最高峰の目標です。しかし、どれほど美しい「感動」という華を咲かせようとしても、その土台となる「土壌」が汚染されていれば、華は芽吹くことすら叶いません。まあ、喜ばせることにコストと言うものが関わると大変です。

 従業員の「心のインフラ」を修復する

カスタマーディライトは、マニュアル通りに動く精巧なロボットからは決して生まれません。それは、スタッフ一人ひとりが目の前のお客様の状況を察し、自発的にプラスアルファの行動をとることで初めて生まれる、心の産物です。

しかし、カスハラが放置された現場では、この自発性が真っ先に失われます。理不尽な暴言や執拗な要求に晒され続けたスタッフは、自己防衛のために「マニュアルの殻」に閉じこもります。「余計なことをしてターゲットにされるくらいなら、最低限のことしかしない」。これは人間として当然の防衛本能です。
つまり、カスハラ対策は、感動を生み出すための「精神的余裕」を取り戻すための、インフラ整備なのです。

これは人間関係と言う複雑な問題があり、社内でも、社外でも、色々な側面において抱える問題ですす。サーフボードを乗りこなすようにその関係から精神的にも裕福になる人もいれば、隘路を陥る人もいます。人財を源泉と考えるのであれば、ケアに対するコストも必要ですね。

「負のコスト」という見えない損失

一人の過激なカスハラ客への対応は、企業の生産性を著しく低下させます。航空機という極限の環境において、一人の不当な要求のために離陸が遅れたり、他のお客様へのサービスが止まったりすることは、決して珍しいことではありません。「俺はダイヤモンド何だぞ」と言うのは未だに耳にしていませんが、そういう事もあるのでしょう。
「感動」を生むために割くべきリソースが、「悪意ある要求」への対応に費やされている現状。これを是正することは、結果として、私たちが受けるべき「正当なサービス」を奪還することに他ならないのです。

なぜ「今」、対策ばかりが叫ばれるのか サービス業の地殻変動

長年、日本には「お客様は神様」という言葉が絶対的な教典として存在していました。しかし、この言葉の誤用と時代の変化が、現代のサービス業を窒息させています。企業がカスハラ対策を公言せざるを得ない背景には、3つの切実な地殻変動があります。

「労働力不足」という国家の存亡に関わる危機

航空業界において、フロントラインに立つCAや地上係員は、一朝一夕で育てられる存在ではありません。高度な安全教育、多言語対応、そして「Inspiration of Japan」を体現する所作。これらを身につけた人材は、企業の「最大の資産」です。

しかし、現在の日本は未曾有の人手不足です。せっかく育てたプロフェッショナルが、たった一人のカスハラ客の暴言で心を折られ、戦線を離脱することは、経営にとって「最新鋭の航空機一機を失う」にも匹敵する甚大な損失です。「スタッフを守る」という宣言は、もはや倫理の問題ではなく、事業を継続するための必死の生存証明なのです。

人手が多かった時代にこうした事で戦線離脱した人がその後にどうなったと言う事もトレースしてみることも人事的には重要かもしれませんね。

「安全配慮義務」の法的責任とESG投資

現代において、従業員の精神的な疲弊は「個人の忍耐」の問題ではなく、企業の「法的責任」です。2020年のパワハラ防止法施行以降、企業にはハラスメントから従業員を守る明確な義務が課せられています。
もし、カスハラを放置してスタッフが不調をきたした場合、企業は法的制裁を受けるだけでなく、投資家からも「人権を軽視するガバナンスの欠如した企業」として厳しい評価を下されます。グローバル市場で戦うANAにとって、これは資金調達や株価にも直結する致命傷になりかねません。

世の中は随分変わり、エモーショナルな社員よりも、俯瞰ばかり気にする社員の方が多いようですが、これも時代なのでしょう。不足分はAIと言うのが体なのでしょう。AI戦略というのはとどのつまり、人事戦略が一番大きいかもしれません。

「お客様は神様」の呪縛からの脱却とSNSの暴力

本来この言葉は、「神様に向き合うような神聖な気持ちで芸を磨く」という演者側の覚悟を説いたものでした。しかし、それがいつしか「金を払う自分は何をしても許される」という傲慢な免罪符にすり替わりました。
さらにSNSの普及により、誰もが簡単に「不当な拡散」を武器に企業を脅かせるようになりました。この歪んだパワーバランスを「対等(フェア)」な位置に戻すには、企業側が毅然とした「ノー」という境界線を引く必要があったのです。

お客様として、神様として崇め、奉められるよりも、普通にフレンドリーな方が気分が良いと言うのもあります。

Inspiration of Japan との整合性   誇り高き「おもてなし」の再定義

ANAミリオンマイラータグ

「Inspiration of Japan」と「カスハラ対策」。これらは一見、水と油のように見えます。しかし、機内の変化を誰よりも近くで見てきた視点で深く洞察すれば、これはブランドが「真の成熟」を迎えるための脱皮であることに気づきます。

「自己犠牲」から「自己実現」へ

日本のおもてなしは、往々にして「滅私奉公」の美学と結びついてきました。しかし、自分を押し殺して耐え忍ぶスタッフから、誰かをインスパイアする(魂を揺さぶる)ような輝きが生まれるでしょうか。
真の「Inspiration」とは、スタッフが自分の仕事に誇りを持ち、自らの意志で「このお客様を喜ばせたい」と動く瞬間に宿ります。カスハラ対策という「盾」は、スタッフが理不尽な恐怖に怯えることなく、その内側にある純粋なホスピタリティを爆発させるための「安全地帯」を作るものです。スタッフを「召使」から「プロフェッショナル」へ。この立ち位置の変換こそが、ブランドの魂を守る唯一の道です。

まあ、プロフェッショナルと滅私奉公は薄氷であり、報酬と個人の気持ちで分水嶺があるようにも感じます。

ターゲット・ロイヤルティの選別

ブランドの本質は「何をするか」ではなく「何をしないか」にあります。ANAがカスハラ対策を明確にするということは、同時に「私たちが提供する価値を理解し、互いに敬意を払えるお客様を、全力を挙げて守る」という、良質な顧客への裏返しの誓約でもあります。
機内という閉鎖空間において、一人のカスハラ客を許容することは、周囲に座る何百人ものお客様の「感動体験」を破壊することを意味します。一部の不適切な利用者を切り捨てる勇気を持つこと。それは、20年もステータスを維持してきたような「真のロイヤルカスタマー」に対して、最高の環境を提供し続けるための「ブランドの規律」なのです。

「Mutual Respect(相互敬意)」という新しい日本の矜持

一方が尽くし、一方が享受する。そんな一方通行の時代は終わりました。おもてなしを提供する側も、それを受け取る側も、互いの存在を尊重し合う「大人の関係性」。そのフェアな土俵の上でこそ、日本が誇るべき洗練された気遣いや、予想を超えたディライトが花開くのです。
「Inspiration of Japan」は、この「相互敬意」という土台の上に築き直されるところですが、10年ぐらい経過してどうなのでしょう。

最後に

「Inspiration of Japan」が目指すのは、単なる顧客満足度ではないとも言えます。世界に誇れるプロフェッショナルたちが、最高の技術とプライドを持って、同じく誇り高い旅人たちをインスパイアする。そんな「高次元の交差点」です。

カスハラ対策という名の「盾」は、その内側にある「おもてなしの炎」が、冷たい悪意に吹き消されないようにするために必要な、文字通りの防風壁なのです。

カスハラは単なる基地外なのか、何か不満があるのか、乗客なのか、よくわかりません。基地外になる由縁の源泉はどこにあるのか、気になります。

基地外的にカスハラを発する人もいれば、何かの導火線に火が付き、一過性のカスハラに陥る人もいます。人も色々で後者の人にとっては反省もある場合もあるので、被害との許容もあるでしょう。

まあ、100万マイルも飛ぶと色々と感じます。

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